働き方改革という言葉が耳になじんできました。
しかし、事務の書類作成や取引先への訪問時間を短縮して退社時間を早めただけでは改革とはいえません。
根本的に業務の効率化を推進するような仕組みを導入することが、改革なのではないでしょうか。
それにまさしく当てはまるのがRPA(Robotic Process Automation)です。
「自動化」は工場だけではない、いまやオフィスも自動化
FA(ファクトリーオートメーション)という言葉は古くからありますが、現在でも生産現場は人手不足で、オートメーションがさらに必要とされています。
一方で、AI(人工知能)がさまざまな職種の仕事を代替するというような記事を、ビジネス誌でよく目にするようになりました。
三菱総合研究所の試算では、AIによる経済効果が期待できる反面、2030年には240万人もの雇用が減少するという予測を発表しています。これには工場以外の事務や販売、サービスに携わる職種も含まれます。
労働力人口の減少
まず、労働人口の減少ですが、少子高齢化で総人口を減らしつつ高齢化していくため、労働に適した人口が減少していきます。
生産やサービス従事者のみならず、オフィスの事務職や営業職も近い将来、労働者不足が深刻化することもありえるのです。
働き方改革の推進
もう1つ注視すべきなのは、「働き方改革」の動きです。
過労死の防止のほか、働く時間を縮小させ余暇の時間を増やし、レジャーや自己啓発にその時間が当てられることによる経済効果が期待されています。
また、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で、日本の労働生産性は20位(2015年OECD調査)という低い位置にあり、世界経済の中での競争力が問われています。
その結果、働き方改革の最終的な目標は、労働の高付加価値化に向かわなければならず、事務処理などのルーチン業務の改革がその1つに挙げられます。
現在は残業時間の管理や定時退社を推進する運動が主なものかもしれませんが、根本的な労働時間の短縮のためには、自動化を推進するAIのような仕組みの導入が避けて通れなくなるでしょう。
導入効果がわかりやすいRPA
そこで注目されているのが、RPA(Robotic Process Automation)です。
RPAとは「これまで人間のみが対応可能と想定されていた作業、もしくは、より高度な作業を人間に代わって実施できるルールエンジンやAI、機械学習などを含む認知技術を活用した業務を代行・代替する取り組み」のことです(日本RPA協会)。
2025年までに全世界で1億人以上の知的労働者もしくは、3分1の仕事がRPAに置き換わるといわれています。
その理由として、労働環境や働き方についての変革が求められる中、次のような導入効果が期待できるからです。
- オフィスワーカーの仕事分(時間・コスト)またはBPO(Business Process Outsourcing)分などの外注コストの削減
- ミスの縮小(機械によるオペレーションでヒューマンエラーを排除)
- 処理時間の短縮(人の手による作業より速い処理を実現)
- 忍耐を必要とする作業の削減(随時発生する顧客対応や単純な事務処理作業を代替)
その結果、オフィスワーカー(ホワイトカラー)はコア業務に集中できるようになり、社員の能力を最大限に発揮できる強い体質の企業になることが1つの目標になります。
RPAの導入について
では、そのRPAの正体とはどのようなものなのでしょうか。
個々のアプリケーションソフトを統合することでも自動化は図れますが、異なるソフトウェアでの表示内容確認、表示結果の不具合チェックと修正、または個々のアプリケーションソフトのバージョンアップの都度の修正など、労力が必要な上にトラブルが増えるリスクも抱えてしまいます。
たとえば、Aというシステムからの結果表示を見てBというシステムに入力し、今度はCというシステムにデータを転記する作業を日に何度も繰り返すような業務ではどうでしょう。長時間作業を続けると集中力が途切れ、作業時間が伸びる上、ミスも発生しやすくなる可能性があります。
こうした作業をソフトウェアが代行し自動化するのがRPAです。いわば目に見えないソフトウェアのロボットと表現することができるでしょう。
誤解を恐れずに表現すれば、RPAはExcelのマクロを高機能かつ複数のアプリケーションソフトにまたがって適用できるような存在かもしれません。
Excelのマクロも手順を登録できますが、誰でもが設定できるものではなく、プログラミングのルールを覚える必要があります。
RPAの目指すところは、IT技術者ではなく、その仕事に携わる現業のスタッフが設定や変更、管理を行えることです。
国産のRPAソフトや、クラウドによる提供が登場し、導入とオペレーションが進めやすい環境になってきています。
RPAに適した業務
同じ作業が繰り返されるバックオフィス業務がRPAに適しているのは、容易に想像できるでしょう。
これまではBPOでアウトソーシングすることで、人件費の削減がなされていました。
たとえば、大量の申込用紙を入力し、その内容別に分類してデータベースに保存し、必要に応じて通知を発信するといった作業です。
そのような需要の高い金融業や、ほかの業界でもよくBPOされていた業務分野からRPAの導入が進むことになるでしょう。
コア業務への集中
RPAのような仕組みが普及することで、コストと時間の削減が可能です。
製造業では製造工程のFA化に続き、受発注の伝票処理、在庫管理や流通時の事務処理などをRPAで短縮化できれば製品の提供時間を早めることもできます。
これらで発生する新しい時間や人材をコア業務に集中させることで、より付加価値の高い製品の開発とサービスの提供を可能にするのが、RPA導入の優れた効果です。
働き方改革による生産性の向上と高付加価値化を目指すことで、オフィス業務のAI化や自動化が進み、結果として先に紹介した予測のように、現在の職務別従事者の構成比は変わっていくかもしれません。RPAのようなシステムを「使いこなせる」ことが、高付加価値化のカギなのかもしれません。
参考:
- 第四次産業革命⑥ -2030年に240万人の雇用減も?-社会影響の定量試算|株式会社三菱総合研究所
- 深刻化する中小サービス業の人手不足|株式会社日本総合研究所
- 労働生産性の国際比較 2016 年版|公益財団法人 日本生産性本部
- 日本の1人あたりGDP、OECD加盟国で20位 15年9.6%減|日本経済新聞
- RPAについて|一般社団法人日本RPA協会
- 働き方改革、そしてデジタル改革に応える「RPA」とは何か|IT Leaders