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最近よく聞かれるようになった「DX」ですが、これまで親しんできた「業務改善」と何がどう違うのか気になる方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は「DX」と「業務改善」の違いについてみていきましょう。
業務改善とDXは違うのか?
このコラムの読者のみなさんはDXに関心を持っていたり、もしくは何らかの理由でDXを推進する立場に任命された方も多いのではないでしょうか。
そのためDXについての理解はすでに深まっていると想像します。
また一方でDXの理解はこれからという方もいらっしゃるでしょう。
ご安心ください。コラム後半でDXについておさらいしますので、そこまで読み進めてください。
話を戻すと、すでにDXの理解を深めているという方の中には、これまでも所属企業などで業務推進活動や業務改善活動にたずさわり、1つ以上の活動を最後まで成し遂げ、周囲からも一定の成果を得たという実績をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
そしてその実績が認められ、期待を受けてDX推進を担当することになった。
そんなみなさんもいらっしゃることでしょう。
さて、DXという言葉は最近よく聞かれるようになりました。いまでは一般向けのメディアでも、特に説明もなく用いられる言葉になってきていると感じます。
「DXとは何か」については後ほど触れますが、その前にみなさんが長年関わり、実績と評価を重ねてきた業務改善とDXとは似て非なるものであるという点を確認しておきましょう。
業務改善もDXも現状を良い方向に変える活動という点では同じです。そのため、目標達成に向けた日々のタスクでは両者に大きな差がみられない期間もあるでしょう。
しかしながら業務改善とDXとでは、目指す目的や目標が異なります。最終到達点が異なるのです。そのための進め方や効果測定の方法も異なります。
この点を混同せずに正しく認識しておくことがDXの成功や、業務改善の成功にとって重要なカギとなるかもしれません。
やや極端な例かもしれませんが、船で海に漕ぎ出すとき(オールを使った手漕ぎにしましょう)、目的地が1km先なのか、数百km以上先なのかによって、準備や進路などのすべてが違ってくることは想像できますよね。
ひたすら頑張ってオールを漕ぐという目前のタスクは同じですが、目指す目的地が違えば、中間目標(マイルストーン)の設定や体力の使い方(ペース配分)なども違ってきます。
業務改善とDXも同じです。
目指す目的・目標を正しく見据えることができれば、より正しく迷いなくDXを進められることでしょう。
この点は非常に重要なのでコラムの最後に改めて触れることにします。
業務改善とは?
さきほど「業務改善もDXも現状を良い方向に変える活動という点では同じです」と説明しました。
これまでさまざまな組織や企業で規模の大小を問わず進められてきた業務改善は、大きな業務プロセスは変えずに、そのプロセス自体や周辺業務のやり方や体制、コストなどを見直すことを指す場合が多いように思います。
例えば工場の生産ラインでの業務改善では、そのラインで何らかの製品を製造するという基本的な部分は維持したまま、製品の製造に必要なさまざまな要素の配置や順番などの変更、省力化やコスト見直し、さらには生産ラインに関わるサプライチェーンの見直しなどを対象範囲とし、このほかにも存在する数多くの改善要素(変数)を複雑に組み合わせて生産性向上を目指してきたのではないでしょうか。
またDXと混同しがちな別の例では、これまで紙書類のやり取りをしていた業務で、物理的な書類作成、捺印、署名、製本などの業務の全部または一部をITツールの導入により改善し、ペーパレス化や業務フローの見直しを実現することなども業務改善の1つといえます。
ご存知のとおりDXのDはデジタルのDですので、デジタル技術つまりITツールを導入すればDXが実現できるという情報発信も目にします。しかしながらこの例では、紙書類でやりとりする業務の基本構造は変えていませんので、あくまでも業務改善の範疇と考えるのが適当でしょう。
なお、DXについては次の段落で説明します。
さてこのように、業務改善はベースとなる現在の業務、もしくは業務プロセスの基本は変えないまま、そのやり方を改善することで効率化を目指すことといえます。
ITツールを導入すること=DX実現というのは本来正しい解釈とは言えないのですが、効果が視覚的に利用者にも分かりやすく、ITツールを提供するサービス事業者側にとっても導入による期待効果の提案がしやすいため、誤解されやすいこうした表現が多く用いられているのかもしれません。
ITツールの提供事業者側としては本質的なDXをサポートするステップとしてまずITツール導入を支援し、それを足掛かりとして最終的なDX実現まで末永く支援していきたいという目論見もあるのでしょう。
言葉を正しく用いることと同じかそれ以上に、実際に改善が進み、効果や成果が出ることが本質的に重要ですので、あまり細かく気にする必要はないかもしれませんが、頭の片隅にでも置いていただければと思います。
DXとは?
DXとは何かについては、このコラムシリーズの中でも何度となく触れてきました。
ここでは過去のコラムから最もシンプルな説明を引用します。
DXの本来の目的は単なるデジタル化ではありません。
デジタル技術をあくまでも道具として活用し、「業務や事業・企業文化などの改革(=トランスフォーメーション)」を行うことが本来の目的です。
重要なので繰り返しますが、ITサービスの利用やツール導入といったデジタル技術の活用は、改革のための手段に過ぎません。
この説明をみると、DXは「改善」ではなく「改革」を目指していることがわかります。
ここで手元の辞書で改善と改革の意味の違いを確認してみましょう。
「改善」 = 悪い状態を改めて良い状態にすること
「改革」 = 制度・組織を根本的に変えること
実際の業務改善では悪い状態を良くする活動よりも、現状をさらに良くするための活動が大半かと思いますが、辞書ではこのように説明されています。
注目すべきは改革の説明です。「根本的に変えること」とあります。
このように、DXは組織や制度、場合によっては企業文化までも対象に、ITツールを用いて根本的に変えることを目指す活動ということになります。
なぜDXの名のもとに現状を根本的に変えなければならないのか。
その究極的な目的は事業競争力の向上です。
とくに2019年末からはじまった新型コロナ感染拡大以降、国内外の状況や情勢は一変し、これまで以上に先が読みにくい世の中になっています。また国内では人口減少、少子高齢化が避けられない状況に陥っています。
そんな予測が難しく急速に変化する時代に生き残り、発展を続けるためには「根本的に変えること=改革」が欠かせないということになります。
幸いにもクラウド技術の進展などが急速に進み、IT技術は安価で誰の手にも届きやすい道具となっています。
2013年秋、米ガートナー社の当時のシニア・バイスプレジデント兼リサーチ部門の最高責任者のピーター・ソンダーガード氏が「2020年には(中略)すべての企業がテクノロジー企業になる」と予測しています。
この予測から約10年が過ぎ、いよいよこの予言が現実味を帯びてきたのではないでしょうか。
さてDXの説明のおわりに、具体的なDXの例を挙げておきましょう。
DXに対するみなさんのイメージがより膨らむよう、具体的な企業名やサービス名ではなく、サービスカテゴリを挙げますので、ぜひ参考にしてください。
● カーシェアリング
● ネットショッピング
● 動画共有サービス
● マッチングサービス
● オンラインストレージ
● 比較サイト
● 旅行予約サイト
これらはいずれも元々、ベースとなるサービス提供基盤や近しい事業基盤があり、そこから思い切って(根本的に)ビジネス変革させた結果として生み出された新サービスです。
今では当たり前となったこれらサービスも、サービス提供開始までには相当な産みの苦しみがあったことでしょう。
粘り強く時間をかけて苦しみを乗り越えた先に成功が待っているのかもしれません。
DX推進を担うみなさんは、ぜひ一度既存のビジネスプロセスから離れ、さまざまな制約を思い切ってリセットし、現在の自社の立ち位置や強みを活かせるビジネスを大胆に考えてみるとよいかもしれません。
なお、もう少し具体的なDXの進め方(ステップ)についてはこちらをご覧ください。
業務改善とDXの異なる点
これまで説明してきたように、業務改善が既存プロセスの基本的な部分を保ったまま既存の事業活動をいかに効率よく、低コストで実現するかなどを追求する活動であるのに対し、DXはこれまでの事業活動をヒントにまったく新しいビジネスを産み出すことで事業競争力強化につながる変革を目指す活動という点が大きな違いと言えるでしょう。
日本企業はこれまで長年にわたり業務改善を得意としてきました。
業務改善によってコストを抑制しながらも製品品質を向上させ、世界に通用する競争力の高い製品を産み出してきました。しかしながらその活動は内向きの要素が強い活動といえるかもしれません。
日本企業が業務改善で比較的内向きの成果を模索している間、米国や中国では各企業が市場に新たな価値を提供する外向きのDXを進め、従来のサービスカテゴリには存在しなかった新たなサービスカテゴリを産み出し、事業競争力の源泉を獲得しているように感じられます。
これからDX推進を担うみなさんは、業務改善のメリットや期待成果は十分に認識されていると思います。
本来目指すべきDXの最終到達点を見失うことなく、両者の良い点を引き出し、組み合わせることができれば、目指す事業競争力の強化を実現できるのではないでしょうか。
まとめ
日本企業がもつ業務改善力を活かしつつ真のDXが実現できれば、さらなる事業競争力を獲得することができることでしょう。
しかしながら業務改善とDXの理解やバランスを見失うと、DXを目指すつもりが業務改善に留まってしまったり、また、DXの最終到達点を遠く高く設定しすぎて周囲の協力が得られず失敗に終わってしまうことになりかねません。
正しい認識と賢明な導きがDX成功のカギかもしれません。