DX推進を担う人材育成のアプローチとは

2023年2月に発表されたDX白書2023では、DXを推進する人材の不足が一層深刻化している状況や、人材育成がますます大きな課題となっていることが指摘されています。

今回は一層ニーズが高まるDX推進を担う人材を育成するアプローチの1つとして、ローコード開発ツールやノーコード開発ツールを上手く活用し、現場主導のDXをすすめるための人材育成についてみていきましょう。

深刻化する人材不足

皆さん「DX白書」をご存知でしょうか?

これは独立行政法人 情報処理推進機構が公開する文書で、2021年から公開されている国内企業のDXへの取り組み状況についてまとめた資料です。

本コラム執筆時点ではDX白書2023(以下、白書)が最新となっています。

DX白書2023
https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html

最新の白書は6章から構成されており、人材については「第4章 デジタル時代の人材」にまとめられています。

白書は日本と米国のデータを比較しながら日本のDXの進み具合などについて評価する内容が多いのですが、人材に関する記述の要約として、白書のプレスリリースから日本の人材の「量と質」について言及する部分を抜粋してみましょう。

人材面では、DX を推進する人材の「量」を調査したところ、人材が充足していると回答した企業は10.9%でした。「大幅に不足している」 と回答した企業の割合は、2021 年度調査の 30.6%から 49.6%へと増加し、DX を推進する人材の「量」の不足が進んでいることが分かりました。

また、DX を推進する人材像の設定状況に関しては、人材像を「設定し、社内に周知している」企業の割合は18.4%でした。「設定していない」割合は 40.0%を占めています。人材の獲得・確保を進める上では漠然と人材の獲得・育成に取組むのではなく、まず自社にとって必要な人材を明確化することが重要となります。
出典:https://www.ipa.go.jp/files/000108109.pdf

この内容から、日本ではDXを推進する人材は約半数の企業で「大幅に不足」と回答する一方、求める人材像や人材獲得・育成は依然不明確な状況が続いていることが読み取れます。

人材育成の現実

DXを推進する人材を量的に増やすためには、人材育成が欠かせません。

人材育成のアプローチや方向性が明確になれば、それを念頭にした人材獲得も進めやすくなることでしょう。

最初から落胆させてしまうつもりはないのですが、はじめからすべての条件にマッチする人材など存在しないと考える方が現実的です。

少しでも条件に近い人材の獲得を目指し、不足部分は育成で補うという考えの方が目指す人材の量的確保にもつながるのではないでしょうか。

DXはデジタル技術を活用した変革ですので、どうしてもデジタル技術の活用を軸に考えがちです。

ですがDXはXの方が大切であることは今いちど確認しておきましょう。

従来、ハードウェアやソフトウェアの使い方を習得する場合は、研修受講や認定資格の取得を通じた技術習得が一般的だったのではないでしょうか。

ところが、そもそもDXは各企業の事情状況により目指す姿が異なり、DXのすすめ方やDX実現の姿にも正解はありません

そのため、研修受講しても「分かったつもり」になるだけで、研修内容をそのまま自社に適用しても自社のDXにはほとんど役に立たないケースも多くなりがちです。

もちろん、DXの推進に間接的に役立つ資格は数多く存在します。

しかしながら、DXの推進能力そのものにお墨付きを与えるような資格は今のところ存在しません。

DXを進める人材は量的に不足している。人材の量的確保のためには人材育成が不可欠。しかしながら人材育成には正解がない

この状況を打破するにはどうすればよいでしょうか?

人材不足の打開策

近年、ローコード開発ツールやノーコード開発ツールといったカテゴリのソフトウェア製品が多数提供されるようになりました。

ローコード開発ツールやノーコード開発ツールの提供形態は大きく2つあり、従来のようにサーバー機器を保有し、そのサーバー機器で稼働する「オンプレミス型」。クラウドサービスとして提供され、月額や年額で課金(サブスクリプション)される「クラウド型」に分かれます。

いずれの場合もローコードノーコードと呼ばれる使用感で提供されています。

従来のシステム開発では専門のプログラマーによる「プログラミング」が必要でした。

しかしながら、ローコード開発ツールやノーコード開発ツールといった製品では、このプログラミングのハードルが圧倒的に低くなっています

つまり、こうした製品ではシステム開発における専門業者などによる「プログラミング」の必要性がほとんどと言っていいほど無くなっていると言えるでしょう。

たとえば、サイボウズ社が提供するkintone(キントーン)はクラウド型で提供されるローコード開発ツールです。

kintoneでは、出力画面や入力画面を作りたい(≒システム開発したい)場合には、あらかじめ用意されているパーツからまるでブロックのように好みのパーツを選択して、画面上にドラッグアンドドロップして並べるだけでシステム開発ができてしまいます。
出典:サイボウズ社 kintoneヘルプ https://jp.cybozu.help/k/ja/user/create_app/tutorial.html

多少凝った表示や動作をさせたい場合も、かんたんな操作や入力だけで意図する動きの多くが実現できます。

このようにほとんどプログラミング技術を必要とせずにシステム開発できるのがローコード開発ツールです。

一方、コード開発ツールはまったくと言っていいほどプログラミング技術を必要とせずにシステム開発ができます。

このように一見良い面ばかりに見えるローコード・ノーコード開発ツールですが、従来のプログラミングによるシステム開発に比べ、実現できる機能に限界があるのも事実です。

ノーコード開発ツールではあらかじめ用意された機能の範囲を超えるシステムは作成できないことが多いです。

ローコード開発ツールの場合でも、ゼロからプログラミングして開発する従来型のシステム開発と比べてしまうと、実現できる機能にはどうしても制限が出てしまいます。

しかしながら、こうしたツールの特徴を正しく理解し上手く活用すれば、人材育成の難易度やスピードは各段に向上し、量的確保にもつながることが期待できるのではないでしょうか。

ローコード開発ツールやノーコード開発ツールを活用した人材育成を行う場合は、並行して育成した人材の活かし方にも工夫が必要になるかもしれません。

つまり、DXのすすめかた自体を見直すことで、ローコード開発ツールやノーコード開発ツールを習得した人材によるDXがより円滑に進む可能性が高くなるともいえるでしょう。

ローコード開発ツールやノーコード開発ツールを上手く活用して従来よりもハードルを下げて人材育成を行い、それと合わせて自社のDXのすすめ方も工夫することができれば、より現実味のある人材確保やDX推進ができるのではないでしょうか。

スモールスタートではじめるDX

これまでのDXというと身構えてしまい、最初から自社の基幹システム刷新に挑んだり、そのために巨額なIT投資をおこなうことが多かったのではないでしょうか。

しかしながら、少なくない企業ではその試みが上手くいかず、場合によっては長い期間取り組んできた基幹システム刷新を断念し、投資額を損失計上するなどの報道を耳にする機会もあると思います。

ここ数年、急速にデジタル技術の活用手段が多様化しています。

システム開発の手法もゼロからのプログラミングによる開発(スクラッチ開発)だけでなく、先ほどご紹介したローコード開発ツールやノーコード開発ツールも機能が向上しており、実現できるシステム開発の幅も広がっています

もちろん、DXは時に企業文化の変革まで視野に入れますので、ローコード開発ツールやノーコード開発ツールで細かく刻むよりも最初から大きなビジョンと覚悟をもって進めるべきという声もごもっともです。

ですが、そのアプローチではなかなか厳しい成功率に留まっているのが現実です。
DX推進の単位を細かく刻むほかにもローコード開発ツールやノーコード開発ツールを用いてDXをすすめることにはメリットもあります。

それはより確実性の高いDX推進が期待できるという点です。

ローコード開発ツールやノーコード開発ツールを用いて、プロトタイプ的に業務改善を進めることで新たな課題や自社にマッチした進め方のヒントも見えてくる可能性もありますし、最初から大規模投資も必要ないため、上手くいかなかった場合のリスクも少なく済みます。

また、DX推進を担う人材育成で期待したい、(デジタル技術の習得ではなく)自社にマッチするデジタル技術の活用方法の立案や、業務課題の見極めができる人材の育成につながる可能性も高くなるといえるでしょう。

DX推進を担う人材にローコード開発ツールやノーコード開発ツールを習得させ、それを用いてスモールスタートで現場業務の改善から着手させることが、デジタル技術の有効活用や、自社業務の真の課題を把握することにもつながるのではないでしょうか。

DX推進を担う人材の育成には、実践的にスモールスタートで一歩ずつ確実に、業務理解とリスクヘッジをしながら進めることが有効なアプローチの1つかもしれません。

ローコード/ノーコード開発ツールの習得

では、実際にローコード開発ツールやノーコード開発ツールはどのように習得すればよいでしょうか。

先ほど例に挙げたサイボウズ社のkintoneの場合、サイボウズ社および各企業から育成に役立つ情報が数多く無償公開されています。

また、認定資格も存在します。

kintone認定資格
https://cybozu.co.jp/kintone-certification/training/

サイボウズ社のYouTubeチャンネルでもkintoneの基本解説や試験対策の解説動画が公開されています。

YouTube サイボウズ社kintoneチャンネル
https://www.youtube.com/@cybozukintone

こうした情報を参照すればkintoneの製品概念の理解や、kintoneでかんたんなアプリケーションを作成することなどは比較的短期間で習得することが可能でしょう。

もちろん、kintone以外にもローコード開発ツールやノーコード開発ツールはたくさん存在しています。

ここでローコード開発ツールやノーコード開発ツールを選択する上でのポイントをみておきましょう。

● オンプレミス提供かクラウド提供か
● 価格(課金体系)
● 提供メーカーの安定性・成長性
● 製品に対する力の入れ具合
● 実績や評判
● 入手できる情報の量と質(マニュアル、サポート、有志からの情報など)
● 機能の拡張性

ほとんどの項目は想像できると思いますので説明を割愛しますが、最後の1つについてのみ補足しましょう。

ローコード開発ツールやノーコード開発ツールは習得し使いこなすほどに、やがて先ほど触れた機能の制約に突き当たることになります。

その場合に取りうる対応の選択肢は「ツールで実現できる範囲の機能に業務を合わせる」「ツールを機能拡張する」の2つになるでしょう。

前者を選ぶ場合はいいのですが、後者を選択した場合にはさらに「APIが提供されているか」「プラグインが提供されているか」といった選択肢が出てきます。
これについて少し説明しましょう。

ローコード開発ツールやノーコード開発ツールには「API(Application Programming Interface)」が準備されている製品があります。

このAPIが提供されているツールであれば、専門業者によるプログラミング支援が必要になる場合が多いですが、他の製品と組み合わせて(連携させて)利用することで機能制約が回避できたり、またはカスタマイズ開発を施すことで機能制約が回避できる可能性があります。

また、プラグインはメーカーが公式に認めている、メーカーもしくは製品取り扱い企業が提供する機能拡張プログラムです。

ノーコード開発ツールやノーコード開発ツールそのものには備わっていない機能でも、希望する機能を持つ「プラグイン」が存在していれば、それを選ぶことでかんたんに機能を拡張できる可能性があります。

このように、APIやプラグインを用いると、機能制約を突破できる可能性が広がり、ローコード開発ツールやノーコード開発ツールの良さをより引き出すことができるようになるのです。

人材育成の限界と解消策

ここまで以下のポイントでみてきました。

● ローコード開発ツールやノーコード開発ツールの機能性が向上し、DX推進の場面でも活用できる可能性が広がっている

● ローコード開発ツールやノーコード開発ツールを上手く活用すればDX推進を担う人材育成のハードルが下げられる可能性がある

● ただしその場合はDXのすすめかた自体にも工夫が必要

● ローコード開発ツールやノーコード開発ツールには機能制約もあるが、製品によってはそれを突破できる拡張機能が用意されている製品もある

このほかにもローコード開発ツールやノーコード開発ツールを活用したDX推進において重要なポイントがあります。

それは、DX推進を担う人材がローコード開発ツールやノーコード開発ツールのすべての機能を隅々まで習得することは現実的ではないということです。

ローコード開発ツールやノーコード開発ツールの習得を通じ、DX推進担当者は現場の業務課題や、ツール実装の際に予想される課題、ITツールの限界と突破の手がかりなどを知ることができるはずです。

ですが、DX推進を担う人材がこれらの実装まで担う必要はないでしょう。

育成のハードルは下げられたとしても、依然社内に数少ないDX推進の担当者ですから、ローコード開発ツールやノーコード開発ツールの細かな機能追求や、API・プラグインの活用法まで詳しく習得し、システム開発している時間はないはずです。

限られたDX推進人材を有効活用するには、専門業者による支援の併用も大事になってくることでしょう。
自社のDX推進担当者には、専門業者に要件を伝える、そのための基礎知識が身についている、この2つの習得が大切ではないでしょうか。

言い換えると、専門業者に要件を提示したり、指示を出したり、進捗や品質をチェックできれば、実際に手を動かす必要はないということです。

人材の量的・質的確保の課題、人材育成の課題以外にもDX推進のためには課題が山積みです。

より効率的に、より質の高いDXを推進するため、育て上げた人材の能力や時間を最大限引き出すことがポイントといえます。

ツールや専門業者を上手く活用しながら、自社人材には本当にその人材が考え、手を動かすべきタスク(コアタスク)に注力させることが重要といえるでしょう。

まとめ

今回は白書で指摘されているDX推進人材の不足と、その解決策をローコード開発ツールやノーコード開発ツールの活用と紐づけながらみてきました。

ここでご紹介したアプローチは人材育成の1つの例にすぎません。

しかしながら、昨今のDX推進状況や景況感なども鑑みると、より現実的なアプローチといえるのではないでしょうか。

ぜひ参考にしていただければ幸いです。

さて、当社では現場主導で進めるDX推進を支援するサービス「わたしのかんたんDX」をご提供しています。

わたしのかんたんDX
https://www.crosshead.co.jp/solution/my_dx/

このサービスではコラムでご紹介したサイボウズ社kintoneを活用したDX推進の支援をはじめ、さまざまな支援をサービスとしてご提供しています。

当社ではDXの推進役は各企業の事情状況をよく知るお客様のDX推進担当者以外にないと考えています。

当社がお客様に代わってお客様企業のDXそのものを推進・実現することはできません。

しかしながら、DX実現を目指す企業や担当者のご支援はできると考えています。

スモールスタートで、確実に、効果を確かめながら現場の成功体験を積み重ね、DXのファン(支援者や賛同者)を増やしながら、徐々にタテヨコのステークホルダー(利害関係者)を巻き込んで変革の範囲を広げ、最終的にお客様企業にDXを実現していただく。そんな姿を目指した支援サービスを提供しています。

ぜひ当社サービスもご覧ください。

繰り返しになりますが DXのすすめ方やDX実現の姿にも正解はありません。

本コラムが皆さんのDX成功に少しでもお役にたてれば幸いです。

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