DXとは、デジタル技術を活用して事業競争力の向上を目指す「改革」と言われます。
また、従来業務の効率化や生産性向上だけでなく、新たな事業領域の創造や、ときには企業文化の改革までも含む活動とされています。
このとき利用されるデジタル技術としてまず思い浮かぶのが、急速に普及が進むクラウドサービスではないでしょうか?
ところが最近ではクラウドサービスも万能ではないことが見え始めています。
すでに企業によってはオンプレミス環境を活用したデジタル技術によるDXも視野に入れているかもしれません。
今回はオンプレミス環境でも手軽かつ効果的に始められるDXについて、具体的なツール紹介と合わせてみていきましょう。
目次
「DXにはクラウドサービス」は本当か?
クラウドサービス全盛の今、多くの企業がこれを利用したデジタイゼーション(※)によってDXの第一歩を踏み出しています。※デジタイゼーションとはIT技術を活用して業務をデジタル化すること
参考)DXのステップとは デジタイゼーションとデジタライゼーション
https://www.crosshead.co.jp/kdx_blog/column/column27/
クラウドサービスが急速に進歩し、提供サービスのバリエーションや使い勝手が良くなるにつれ、多くの企業がDX実現に用いるデジタル技術の筆頭として、クラウドサービスを挙げるようになりました。
そして、クラウドサービスを選択した多くの企業では「低コスト」を最大の選択理由として挙げていたのではないでしょうか。
またコスト以外にも、クラウドサービスの主なメリットとして以下のポイントを挙げる方も多いと思います。
● 利用開始までのスピード
● 耐障害性
● 拡張性
● 新技術への対応スピード
● 運用負荷軽減
● 使いたいときに使いたい分だけ利用できる
なお、電気・空調やデータセンター関連の項目は広い意味でコストに含まれるので敢えてここには含めていません。
クラウドサービスにはコスト以外にもこうしたメリットがあり、その評価が高まった結果、クラウドサービスの今日の普及につながっていると言えるでしょう。
しかしながら、クラウドサービスも万能ではありません。
その最大の短所はレスポンス(応答時間)ではないでしょうか。
クラウドサービスは「クラウド」と呼ばれる、クラウドサービス事業者が運営する遠隔地にあるデータセンターに設置された機器を通じて提供されるサービスです。
そして利用側の企業は多くの場合、インターネットなどのネットワーク回線を介してクラウドサービスを利用します。
このとき、どれだけクラウドサービス提供者が高性能な機器を準備しても、どれだけサービス利用者が高性能な利用端末(PC、スマートデバイスなど)を準備しても、サービスのレスポンスはネットワーク回線に一定程度依存してしまいます。
なお、少し前まではクラウドサービスのセキュリティ面を懸念する声もありましたが、現在ではほぼ解消されていると考えて良いでしょう。
企業によってはこの「レスポンス」がビジネスに致命的な影響を与える場合もあることでしょう。
レスポンスがビジネスに与える影響が大きい企業の場合、DX実現の実現手段の1つとしてクラウドサービスを選択したものの、最も大切なレスポンスがDX実施前よりも悪化してしまうと、DXどころか改悪になってしまいます。
また、先ほど挙げたクラウドサービス選択の最大の理由である低コストについても、利用状況によってはクラウドサービス利用が逆に高コストとなるケースも出てきました。
クラウドサービス以外の選択肢
ここでクラウドサービスの利用が高コストとなる例として(Ahrefs Pte.Ltd 以下、Ahrefs社)の例をみてみましょう。
Ahrefs社はWebページのアクセス解析サービスを提供する企業です。
日本国内にも多くの利用企業があり急速にサービス規模が拡大しています。
このAhrefs社が2023年3月9日に興味深い記事を公表しました。
How Ahrefs Saved US$400M in 3 Years by NOT Going to the Cloud
https://tech.ahrefs.com/how-ahrefs-saved-us-400m-in-3-years-by-not-going-to-the-cloud-8939dd930af8
タイトルを直訳すると「どのようにしてAhrefs社はクラウドに行かない(クラウドを利用しない)ことによって3年間に4億米ドルを節約したか」とでもなりましょうか。
タイトルの「クラウド」はAWSです。4億米ドルはこの記事執筆時点の為替レートで約522億円です。
Ahrefs社はWebページのアクセス解析サービスを世界60万人にクラウドサービスとして提供するクラウドサービス事業者という側面も持っています。
つまり、Ahrefs社という世界規模のクラウドサービスを提供する事業者が、AWSをサービス提供基盤として利用者にサービス提供をしているが、AWSに移行しないと決めたことで3年間に約522億円節約できた試算の事例ということになります。
Ahrefs社がこれだけのコスト削減を可能にした背景には、CPUやメモリ、ストレージといったシステムリソースを膨大に必要とするサービスを展開していることが挙げられます。
つまり、Ahrefs社が求めるサービス提供基盤の品質や量は一般的な企業とは規模が異なります。
ですので、くれぐれもどの企業でもAWSの利用を止めると膨大なコストが削減できるとは思わないようご注意願います。
ではなぜそれだけのシステムリソースが必要かというと、もちろんWebページアクセス解析の計算性能維持もあるでしょうが、世界60万人へサービス提供するにあたってレスポンスを維持するという側面もあったことでしょう。
例が長くなっていますが、結局Ahrefs社は自社サービス基盤をAWSに移すことはせず、シンガポールのデータセンターでオンプレミス環境を使い続けることを選択したようです。
この事例を読むとオンプレミスもまだまだ捨てたもんじゃない、と思われる方もいらっしゃることでしょう。
ただし多くの企業がクラウドサービスの利用を進めている背景には、オンプレミスの短所を補完したいという意図があることも事実です。
ここで改めてオンプレミスの主な長所と短所を確認しておきたいと思います。
一般的に言われるオンプレミスの長所と短所は概ねこれらに集約されるのではないでしょうか。
主な長所
● レスポンス(上述のとおり)
● セキュリティ(データの漏えい防止や秘密保持が手の届くところで管理できる)
● データの保全性(データが不可抗力によって失われにくい)
主な短所
● コストが高い(システムリソース、設置場所、運用人件費など)
● 運用の手間がかかる(人件費、人材確保など)
● 耐障害性・耐災害対策性が高くない(とくに単一拠点運用の場合)
こうした長所・短所を十分に理解し判断した上で、敢えてDX実現にオンプレミス環境を選択するという判断は十分にアリと言えるのではないでしょうか。
オンプレミス環境でDX
クラウドサービス利用ではなく、自社が保有するオンプレミス環境でDXを実現する場合、システム実装の方法にはいくつかの選択肢が考えられます。
● スクラッチ開発
● パッケージソフトウェア利用
かつてはほとんどが前者でした。
自社でシステム化企画し、要件定義~設計~開発~移行~運用に至る工程をウォーターフォール型やアジャイル型などの手法でたどりながら自社の細かな要望を取り入れ、まさにオーダーメイドのシステム開発を目指す方式です。
スクラッチ開発が成功すれば、これ以上ない使い勝手が得られるため長年多くの日本企業で採用された方式です。
一方の後者は、ソフトウェア開発企業が提供するパッケージソフトウェアを自社に導入して活用する方式です。
パッケージソフトウェアは同種同類の他社のベストプラクティスや、汎用的な業務プロセスを盛り込んでいます。
本来であれば自社業務をパッケージソフトウェアに合わせることで、その導入効果を最大限に活かせます。
しかしながら、日本国内ではパッケージソフトウェアの機能に業務を合わせることができず、逆にパッケージソフトウェアにカスタマイズ開発を加えて業務に合わせる形の導入例が数多くみられ、パッケージソフトウェアの良さを十分に活かし切れない例が多発していたのはみなさんご記憶のとおりです。
スクラッチ開発・パッケージソフトウェア利用のいずれの場合も、オンプレミス利用では以下の点が課題とされることが多く、その反動がクラウドサービス普及の推進力になったともいえるのではないでしょうか。
● 初期の導入コストが高い
● 利用できるまで時間がかかる
● 導入完了後の変更への柔軟性が低い
では、やはりクラウドサービスの利用がDX実現のベストな選択なのでしょうか?
お待ちください。
オンプレミス環境でもこうした課題を解消できる選択肢が出てきました。
早速ご紹介しましょう。
OSSのローコード開発ツール
今回ご紹介するのは「Pleasanter(プリザンター)」です。
Pleasanterは東京都内に本社を構える株式会社インプリム(以下、インプリム社)によって自社プロダクトとして開発・提供されているローコード開発ツールです。
また、オープンソース(AGPL)で提供されており商用利用も可能です。
対応言語は日本語、英語、ドイツ語、韓国語、中国語(簡体)、スペイン語、ベトナム語と幅広く、グローバル展開する企業でも利用できる可能性が高いのではないでしょうか。
提供環境はオンプレミス環境のほか、専用クラウドサービス(Pleasanter.net)からの利用も可能です。
Pleasanter オンプレミス版
https://pleasanter.org/
Pleasanter クラウド版(Pleasanter.net)
https://pleasanter.net/
Pleasanterの特徴をかんたんにまとめると、以下のようになります。
● オープンソースソフトウェア(OSS)
● 提供元が国内企業
● ローコード開発ツール
● ビジネス向け
● Webアプリケーションプラットフォーム
● オンプレミス利用可(クラウドサービスとしても利用可)
Pleasanterはローコード開発でWebアプリケーションをかんたんに作成することができます。
ローコード開発というのは、スクラッチ開発やカスタマイズ開発で行われていたプログラミングによる開発ではなく、できるだけプログラミングをすることなくドラッグアンドドロップなどの操作によって利用者でも手軽にシステム開発できる、このところ急速に普及しているシステム開発の手法や支援ツールを指します。
また、Pleasanterで作成するのはWebブラウザを使ってシステムへの入力やデータ参照などを行うWebアプリケーションです。
Webアプリケーションですので、アプリケーションの作り方次第で、PCだけでなくスマートフォンやタブレットなどからも利用することができます。
当社ではローコード開発ツールなどを用いて現場主導でDXを推進し、やがて全社のDXにつなげることを支援するサービス「わたしのかんたんDX」をご提供しています。
わたしのかんたんDX
https://www.crosshead.co.jp/solution/my_dx/
これはスモールスタートで、確実に、効果を確かめながら現場の成功体験を積み重ね、DXのファン(支援者や賛同者)を増やしながら、徐々にタテヨコのステークホルダー(利害関係者)を巻き込んで変革の範囲を広げ、最終的にお客様にDXを実現していただくご支援を提供するものです。
PleasanterはこうしたDXのすすめ方に最もマッチする製品の1つといえるでしょう。
Pleasanterを使いこなす
Pleasanterはオンプレミス環境でもクラウド環境でも利用することができます。
しかしながらこの両者の環境でまったく同じことを実現できる訳ではありません。
オンプレミス環境でのシステム開発と、クラウドサービス利用でのシステム開発にはそれぞれ特徴があり、開発の自由度ではやはりオンプレミス版に軍配が上がります。
もっとも、複雑な作り込みを必要としない場合はクラウド版で十分でしょう。
Pleasanterはオープンソースソフトウェア(OSS)ですのでライセンス費用は発生しません。これはオンプレミス版でもクラウド版でも同様です。
ただし、オンプレミス版の場合はPleasanterを稼働させるサーバー機器やネットワーク機器、それらの設置場所や稼働させる電気・空調等のコスト、機器の運用監視を行うための人件費などのコストが発生します。
そこで当社ではPleasanterのオンプレミス環境での利用に加え、オンプレミス版のPleasanterをAWS上で稼働させるハイブリッド的なサービスもご提供しています。
つまり、当社では以下の2つのサービスでPleasanter利用をご支援しています。
1.Pleasanterのオンプレミス版を「そのまま利用」(Pleasanterソリューション)
2.Pleasanterのオンプレミス版を「AWS上で稼働」(Pleasanter on AWS)
上記2は少しイメージしずらいかもしれませんが、実装の順序としてはまずオンプレミス版のPleasanterを通常通り実装します。その後にそのオンプレミス版Pleasanterの稼働環境を、そっくりそのままAWS上で稼働させるというものです。
通常、オンプレミス版Pleasanterでは動作環境として物理的なサーバー機器などを準備することが多いですが、このサーバー機器に代えてAWS上にインスタンスと呼ぶ仮想サーバーを構築し、その仮想サーバー上でオンプレミス版のPleasanterを稼働させます。
本コラムではここまでオンプレミス環境でのDX実現について説明していますが、実は当社はAWS社の認定パートナー(APNアドバンスドコンサルティングパートナー)でもあります。
ですので、決してアンチクラウドサービスの立場でなく、みなさんそれぞれの実状にあった選択をご紹介しています。
当社ではクラウド環境のDX実現も多数手がけていますので、Pleasanterのオンプレミス版をAWS上で稼働させたいという、ハイブリッドなご要望にもお応えできます。
さて、ローコード開発ツールに限らず、これまでもOSSとして提供される製品は存在していましたが、ビジネス利用(商用利用)の場合に最も課題となったのがサポートではないでしょうか。
製品自体は無償で利用でき、ローコード開発でかんたんにシステム開発ができる。
しかもオンプレミス版とクラウド版を選べる。
ここまでは良い事ばかりですが、たとえばシステム開発していてどうしても自力では解決できないことがある。無事システム開発を終え業務利用を始めたものの、想定外の障害が発生し業務影響も出ているが原因や対策が分からない。
こんな状況になってもOSSでは自己解決が基本です。
こうした企業をご支援するため、当社ではPleasanterの導入活用支援、開発支援、サポート支援を有償で提供しています。
当社がお客様の支援窓口・問合せ窓口となり、Pleasanterを有効活用するためのご支援を提供しています。
もしかすると、Pleasanterの開発元ではない当社のサポート品質にご懸念を抱く方もいらっしゃると思います。
Pleasanterはメーカーであるインプリム社のバックアップ体制も充実しており、インプリム社と連携して当社から有償で質の高いサポートの提供が可能となっています。
利用が広がるPleasanter
現在、DXを目指して利用が進むローコード開発ツールの多くがクラウドサービスとして提供されています。
その理由やメリットは先にご紹介した通りで、従来のシステム環境を「保有」する考え方から「利用」する考え方へのシフトにともない、ますますクラウドサービスの利用が進んでいます。
ただし、クラウドサービスを盲目的に支持することは禁物です。
自社が実現したいDX、自社が顧客に提供したい価値などによってシステム環境を適材適所で使い分けるのがこれからのDX成功の勘所といえるのではないでしょうか。
こうした使い分けに早い段階で気付き、アンテナを巡らせている感度の高い目利きの企業を中心にPleasanterの導入が進んでいます。
とくにクラウドサービスの利用でランニングコストが高額になることを嫌う大手企業を中心に、オンプレミス版のPleasanterを用いたDX推進事例が次々と出てきています。
利用者数が多い大企業では、オンプレミス環境で利用する機器類の償却期間を超えてもなおサブスクリプション費用が発生し続けるクラウドサービスのランニングコストが大きな負担になっているようです。
大企業を中心に、コストパフォーマンスとレスポンスが良く、そのうえ現場担当でも手軽にシステム開発ができ、さらには有償でサポートを受けられ安心感もあるローコード開発ツールとしてPleasanterの利用が広がっています。
まとめ
今回はDX推進に用いるデジタル技術実装の新たな見方をご紹介してきました。
DX推進には必須となるデジタル技術をスピーディに、初期費用を抑えて実装するにはクラウドサービスが適しています。
一方でクラウドサービスは万能ではありません。
場合によってはオンプレミスよりも高コストになってしまう事例も紹介しました。
日本企業の多くが求める自社業務に則したシステム開発によるDX実現を図るには、ローコード開発ツールなどを用いて現場担当者自らがシステム開発を進め、その成功体験をタテヨコに広げていくことが近道と当社は考えています。
ローコード開発ツールはクラウドサービスとして提供されるものがほとんどのように思われますが、今回ご紹介したPleasanterはクラウド版、オンプレミス版の両方が提供されています。
PleasanterはOSSとして提供されているため、オンプレミス版であってもライセンス費用は発生しません。
OSS利用の場合に懸念されるサポートは当社がインプリム社と連携のもと、有償でご提供しています。
そしてこうしたPleasanterが持つ特徴をいち早くキャッチし、自社のDX推進に活用する企業が大企業を中心に広がっています。
ぜひみなさんもDX推進に用いるデジタル技術の選択について、改めて視点を変えてご検討されてみてはいかがでしょうか。
そのとき、今回ご紹介したPleasanterはもっとも有力な選択肢になることでしょう。