近年、企業のIT環境は大きく変化し、クラウドサービスの活用が一般化しています。
特に「SaaS(サース)」は、業務効率化やリモートワーク推進の強力な味方として、多くの企業に導入されています。
しかし、便利さの裏には「SaaS 管理」という新たな課題が浮上しているようです。
SaaS管理の課題
- 可視化の欠如
どの部門がどのSaaSを使用しているか不明 - アカウント管理の不備
退職者のアカウントが放置されている - 無駄なコスト
同じ、あるいは似たサービスが複数部門で重複契約されている
これらの課題は、情シス担当者だけでなく、DX推進や経営層にとっても無視できない問題ではないでしょうか。
本記事では、SaaS管理の基本、可視化・最適化の方法、最新の管理ツールの選び方、全社的な統制のポイントを実践的なノウハウとして解説します。
「SaaS 管理」を仕組みで解決し、情シス以外も巻き込んだ全社最適を目指しましょう!
目次
SaaSとは?
近年SaaSという言葉をよく聞きますが、何を指しているのでしょうか?
SaaS(Software as a Service:サース)とは、インターネット経由で利用できるクラウド型のソフトウェアサービスです。
代表的なSaaSには、メールやドキュメント管理の「Google Workspace」、ビジネスチャットの「Slack」、オンライン会議の「Zoom」があり、業務のさまざまなシーンで活用されています。
クラウド型ソフトウェアの進化とSaaSの普及
SaaSはここ数年で急速に普及しました。サーバーやインフラの管理が不要で、必要な機能を必要な分だけ利用できる「サブスクリプション型」の料金体系も、企業にとって導入しやすいポイントの1つです。リモートワークやDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進により、SaaSの導入は今や企業規模を問わず一般的になっていることでしょう。
インストール不要、すぐ使える、でも管理は別問題
SaaSは「インストール不要ですぐ使える」手軽さが魅力の1つですが、
一方で「だれがどのサービスを使っているのか」、「契約やアカウントの管理はどうなっているのか」といった新たな管理課題も生まれているようです。
特に複数の部門や拠点で導入している場合、全体像の把握やコスト管理が難しくなりがちです。このような背景から、「SaaS 管理」の必要性を感じている管理者や経営者もいるのではないでしょうか。
なぜSaaSは情シスの悩みの種になるのか?よくある3つの課題
SaaSは導入が容易で、現場主導で手軽に使い始められる反面、企業全体で見たときに「SaaS 管理」が大きな課題となるケースが増えているようです。
ここでは、情シス(情報システム部門)が直面しやすい代表的な3つの悩みを解説します。
悩み①:だれが何を契約しているのか分からない
SaaSは契約プロセスが容易であることから、現場の担当者や部門ごとに独自で導入が進みがちです。
その結果、「どの部署が、どのサービスを、何の目的で使っているのか」が情シスから見えなくなり、全体像の把握が困難になりやすいです。
この“見えないSaaS”は「シャドーIT」とも呼ばれ、セキュリティリスクやコストの無駄につながるため、早期の可視化が重要です。
悩み②:退職者のアカウントが放置されている
従業員が退職した際、情シスが把握していないSaaSのアカウントが残ってしまうことがあります。
放置アカウントは情報漏洩や不正アクセスのリスクを高め、不要なライセンス費用が発生し続ける原因にもなります。アカウントの適切な管理は「SaaS 管理」の基本中の基本といえるでしょう。
悩み③:同じようなサービスが部門ごとに乱立している
部門ごとに独自でSaaSを導入した結果、同じ用途のサービスが複数存在し、「重複契約」や「機能のバラつき」が発生することがあります。
A部門はZoom、B部門はMicrosoft Teams、C部門はGoogle Meetを使っている、といった状況です。
このような乱立は、コスト増加だけでなく、社内の情報共有や運用ルールの複雑化を招くことがあります。
SaaSの利便性の裏側には、このような「見えない課題」が潜在化するようです。
次章では、初心者や兼任担当者でも始められる「SaaS 管理」の基本ステップについて解説します。
まずはここから!SaaS管理の基本ステップ
SaaS管理は、専門知識がなくても「基本の型」を押さえれば始められます。
ここでは、情シス専任でない方や、SaaS管理が初めての方でも実践できる、最初の3ステップを解説します。
全体を把握する「SaaS棚卸し」のやり方
SaaS管理の第一歩は、「いま、社内でどんなSaaSが使われているのか」を正確に把握することです。
これを「SaaS棚卸し」と呼びます。
棚卸しの目的は、“見えないSaaS”をゼロにすることです。
まずは以下の手順で進めてみてはいかがでしょうか。
1.情報収集の範囲を決める
全社か、まずは自部門から始めるかを決めます。
最初は小さく始めてみるとコツをつかみやすいかもしれません。
2.関係者にヒアリング・アンケートを実施する
各部門の担当者や経理部門に、次の項目などをヒアリングします。
- 使っているSaaSサービス名
- 契約者
- 利用目的
- 支払い方法
経費精算やクレジットカード明細も有効な情報源ですので確認をおすすめします。
3.リスト化して“見える化”
関係者から集めた情報を一覧表にまとめます。
サービス名/利用部門/契約者/利用人数/費用/契約期間など、後で管理しやすい項目を揃えるとよいでしょう。
4.“隠れSaaS”の発見
現場で独自に契約しているサービスや、無料トライアル中のサービスも漏れなくリストアップするのがよいでしょう。
「経費精算にSaaS名が出てこないか」「メールの請求書に見落としがないか」もチェックポイントです。
簡単に始められるSaaS管理表
SaaS棚卸しで集めた情報は、ExcelやGoogle スプレッドシートなど、身近なツールでも管理が可能でしょう。
最初から高機能な管理ツールを導入しなくても、以下のようなシンプルな管理表で十分と考えられます。
ポイントは、「利用目的」と「契約者」を明記することです。見直しや責任の所在が明確になります。
また、定期的に更新し、退職者や未使用アカウントのチェックも忘れずに行いましょう。
最初に見直すべき「利用目的」と「契約者の所在」
SaaS管理表を作ったら、まず注目したいのが「利用目的」と「契約者」です。
利用目的の明確化
利用目的や利用による叶えるべきゴールが曖昧な場合、不要なサービスや重複利用が発生しやすくなることでしょう。
「本当に必要か?」「他のサービスで代替できないか?」を見直すきっかけとして、SaaS管理表を活用しましょう。
契約者の所在確認
管理者や利用者の退職・異動にともない、アカウントが放置されるリスクがあります。
契約者の在籍状況、責任者が明確かを必ず定期的にチェックし、必要に応じて契約者の変更や利用アカウントの棚卸しを行いましょう。
SaaS管理の最初の一歩は、「全体像の見える化」と「責任の明確化」です。
難しいITの知識は不要です。まずはExcelやGoogle スプレッドシートなどで、SaaS棚卸しと管理表づくりから始めてみるのはいかがでしょうか。
この基礎的な管理が、後のコスト最適化やセキュリティ強化、DX推進の土台となります。
SaaS管理ツールのトレンドと選び方
ここまでSaaS管理の課題や管理方法を説明しました。
しかしながら、SaaSの利用が拡大する中、「手作業での管理には限界がある」と感じる企業も増えているようです。
そこで注目されているのが、SaaS管理を効率化・自動化するための「SaaS管理ツール」です。
本章では、2025年時点で注目されている主要ツールと導入時のチェックポイントについて解説します。
SaaS管理ツールとは?どんな課題を解決できるのか
SaaS管理ツールにより、「見える化」「最適化」「セキュリティ強化」を支援する主な機能は以下の通りです。
- SaaSインベントリの自動作成
ネットワークやID連携を通じて、社内で利用されているSaaSを自動検出し、一覧化する機能 - アカウント・ライセンス管理
各サービスの利用者・アカウント状況を一元管理し、未使用アカウントの棚卸しや退職者対応を効率化する機能 - コストの可視化・最適化
サービスごとの利用状況やコストを集計し、重複契約や無駄な支出を発見する機能 - セキュリティ・ガバナンス強化
アクセス権限の管理や、SSO(シングルサインオン)・MFA(多要素認証)との連携、利用状況の監査ログ取得など、セキュリティ対策をサポートする機能 - レポート・アラート通知
利用状況や異常検知を自動でレポートし、担当者にアラートを通知する機能
これらの機能が実装されたSaaS管理ツールを活用すると、「だれが、どのSaaSを、どのくらい使っているのか」をリアルタイムで把握し、コストやリスクの最適化の実現につながることでしょう。
2025年時点で注目されている主要ツール一覧
SaaS管理ツールは国内外で多様な製品が登場しています。
ここでは、2025年時点で注目されている代表的なツールを紹介します。
サブかん(ビープラッツ株式会社)
「契約・請求・支払い」などのサブスクリプション特有の運用管理を強みとしたツールです。
ジョーシス(ジョーシス株式会社)
SaaSの一元管理に加え、IT資産管理やワークフロー自動化も可能としています。
デクセコ(株式会社オロ)
SaaSの利用状況やコストを自動で可視化し、契約・アカウント管理を効率化できます。
マネーフォワードAdmina(マネーフォワードi株式会社)
SaaSアカウントの自動検出・棚卸し・権限管理を一元化し、セキュリティとコスト最適化を支援する管理サービスです。
HENNGE One(HENNGE株式会社)
SSO(シングルサインオン)やアクセス制御に強みを持っています。
Okta(米国 Okta Inc)
IDaaS(ID管理)として有名ですが、SaaS管理・可視化機能も充実しています。
SSO(シングルサインオン)・MFA(多要素認証)連携が強みです。
各ツールには無料トライアルやデモが用意されていることが多いようです。
契約前にトライアル利用で実際に操作感や機能を比較検討することをおすすめします。
導入時のチェックポイントと比較軸
一部のSaaS管理ツールを紹介しましたが、これら以外にも多くのツールがあり、どれを選ぶべきか悩まれている方も多いかと思います。
SaaS管理ツールを選ぶ際に重要なポイントの1つは、自社に合った比較軸でSaaS管理ツールを比較・検討することではないでしょうか。
必ずしも「多機能=最適」ではありません。「自社の課題」や「運用体制に合ったツール」を選ぶことが、SaaS管理成功のカギです。
ここでは、SaaS管理ツールを選ぶ際の観点をいくつかご紹介します。
費用(コスト)
初期費用・月額費用・従量課金の有無。
自社の規模やSaaS利用数に合った価格体系かどうか。
機能の充実度・適合度
自動検出、アカウント管理、コスト分析、SSO(シングルサインオン)/MFA(多要素認証)連携、レポート機能など、自社が必要としている機能が揃っているか。
運用負荷
導入・運用が簡単か。既存システムとの連携性や、担当者のITスキルに合ったUIか。
サポート品質
日本語対応の有無、サポート体制、トラブル時のレスポンスなど。
市場シェア・導入実績
同業他社での導入事例があるか。信頼できるベンダーかどうか。
セキュリティ・ガバナンス対応
自社のセキュリティポリシーや法令遵守要件に合致しているか。
SaaS管理ツールは、手作業では難しい「可視化」「最適化」「セキュリティ強化」を効率的に実現するための強力な味方となりえます。
まずは自社の課題を整理し、必要な機能や運用イメージを明確にしたうえで、複数のツールを比較検討しましょう。
「SaaS 管理」を「仕組み」で支えることで、情シスの負担軽減と全社最適化の実現に近づけるのではないでしょうか。
SaaS管理ツールはこう使う!活用パターン別ユースケース紹介
SaaS管理ツールは、単なる「一覧管理」だけでなく、さまざまな業務課題の解決に役立つ可能性があります。
ここでは、代表的な活用パターンごとに、SaaS管理ツールの実践的な使い方を紹介します。
パターン①:棚卸し・可視化を自動化して”シャドーIT”を防止
SaaS管理の現場で最も多い悩みが「だれが、どのSaaSを使っているのか分からない」という状況です。
SaaS管理ツールを導入で、社内ネットワークからのSaaS利用状況を自動的に検出・可視化できるかもしれません。
これにより、情シス部門が把握していなかった“シャドーIT”(非公式に利用されているSaaS)も洗い出せるため、情報漏洩リスクや重複契約の防止につながります。
たとえば、ジョーシスやマネーフォワードAdminaなどは、SaaSの自動検出機能で「見えないSaaS」を可視化できるため、棚卸し作業が大幅に効率化されることでしょう。
パターン②:SSO/SCIMによるID管理の自動化で退職者対応も安心
SaaS管理のもう1つの課題が「退職者アカウントの放置」です。
SaaS管理ツールの多くは、SSO(シングルサインオン)やSCIM(自動プロビジョニング)に対応しており、従業員の入退社に合わせてアカウントの自動発行・自動削除が可能です。
これにより、退職者のアカウントが放置されるリスクを抑え、セキュリティ事故や不正利用の防止につながることでしょう。
HENNGE OneやOktaなどのID管理系ツールは、SaaS管理と連携することで、人事システムとSaaSアカウントの連動も実現できるようです。
パターン③:部門間の重複契約を洗い出してコスト最適化
SaaS管理ツールは、部門ごとにバラバラに契約されているSaaSの重複も可視化できます。
複数部門が個別に同じようなサービスを契約している場合、SaaS管理ツールで全社の契約状況を一覧化し、重複契約や未使用アカウントを発見できます。
これにより、不要なコストの削減や、全社一括契約によるボリュームディスカウントの交渉が可能になり、SaaSコストの最適化が実現するかもしれません。
サブかん、ビープラッツなどは、契約・コストの見える化に強みを持っているようです。
SaaS管理ツールの活用は、情シス部門だけでなく、経理・人事・各部門の担当者にもメリットがあるでしょう。
自社の課題に合った活用パターンを見つけ、SaaS管理の最適化を進めてください。
全社でのSaaS統制とコスト最適化:DX推進担当が考えるべき視点
SaaS管理は情シス部門だけの課題ではありません。
DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するうえで、全社的なSaaS統制とコスト最適化は不可欠な要素だと思う方も多いでしょう。
ここでは、DX推進担当や経営層が押さえておくべきポイントを解説します。
部門ごとのSaaS導入が引き起こす3つのムダ
SaaSは手軽に導入できる反面、各部門が独自にサービスを契約することで、次のような3つの「ムダ」が発生しがちです。
- 重複契約によるコストのムダ
同じSaaSを複数部門が個別に契約し、全社でまとめれば得られる割引や管理効率を逃してしまう。 - 未使用アカウント・ライセンスのムダ
退職者や異動者のアカウントが放置され、使われていないのに料金だけ発生している。 - セキュリティ・ガバナンスのムダ
管理されていないSaaSが増えることで、情報漏洩やコンプライアンス違反のリスクが高まる。
SaaS管理表やSaaS管理ツールを活用することで、全社レベルで契約・利用状況を可視化することは、これらのムダを根本から解消し、会社全体のDXを推進する体質に変化させることにつながるでしょう。
ポリシー策定と全社SaaS方針の作り方
SaaS管理を全社で最適化するには、「ルール」と「方針」の明確化が重要です。
- SaaS導入・利用のガイドラインを作成
どのようなSaaSを、どの手順で導入・申請するかを明文化し、全社員に周知します。 - 承認フローの標準化
新規SaaS導入時は情シスやDX推進担当のチェックを必須とし、セキュリティ・コスト観点での審査を徹底します。 - 定期的な棚卸し・見直しの仕組み化
年1回など定期的にSaaSの利用状況を棚卸しし、不要なサービスやアカウントを整理します。 - 全社SaaS管理ツールの導入・活用
情シスだけでなく、経理・人事・各部門も巻き込んで、SaaS管理ツールを全社標準の基盤とします。
このようなポリシー策定と運用ルールの徹底が、SaaS管理の属人化を防ぎ、全社最適化の第一歩となるでしょう。
「コストの見える化」と再交渉のポイント
SaaS管理の成熟度を高めるためには、まず全社で利用しているSaaSのコストを正確に把握することが重要です。
SaaS管理表やSaaS管理ツールの活用で、契約状況や利用実態、コストを一元的に可視化できます。
「コストの見える化」が実現すると、次のステップとして、実際の利用状況に応じた契約内容の見直しが可能になります。
利用頻度が低いサービスや不要なライセンスの削減、複数部門で個別に契約していたSaaSをまとめた一括契約に切り替えることで、コストの最適化が図れます。
SaaS管理ツールで得られたデータは、ベンダーとの再交渉にも大きな武器となります。
利用実績や契約規模を根拠に、ボリュームディスカウントや長期契約による割引など、より有利な条件を引き出せる可能性があります。また、コスト削減やリスク低減の成果は、定期的に経理部門や経営層にレポートとして報告し、SaaS管理の重要性を全社で共有することも大切でしょう。
このように、SaaS管理を活用したコストの見える化と、データに基づく再交渉のサイクルを回すことは、企業全体のSaaSコストを継続的に最適化し、DXの推進にもつながっていくのです。
まとめ
SaaS管理は「仕組み」で解決できる。今こそ情シス以外も巻き込もう!
SaaS管理は、もはや情シス部門だけの課題ではないでしょう。
SaaSの導入が加速し、業務の現場ごとに多様なサービスが使われる今こそ、「仕組み」と「ルール」で全社的に最適化を進めることが重要になります。
本当に必要なのは「ツール」より「ルール」
SaaS管理ツールは、多くの課題を解決する強力な武器となりえます。
しかし、本当に大切なのは、「どのようなSaaSを、どの手順で、だれが管理するのか」といった運用ルールを明確にし、全社で共有・徹底することです。
SaaS管理の属人化を防ぎ、継続的な最適化を実現するためには、「ツール」と「ルール」の両輪が不可欠ではないでしょうか。
だれが見てもわかる運用ドキュメントを整備する
SaaS管理の仕組みを全社に根付かせるには、だれが見ても理解できる運用ドキュメントの整備が欠かせません。
SaaSの導入・申請フロー、アカウント発行・削除の手順、定期的な棚卸しの方法などを、分かりやすく文書化し、情シスだけでなく経理・人事・各部門の担当者にも周知するのがよいでしょう。
このようなドキュメントがあれば、担当者が変わってもSaaS管理の品質を維持でき、トラブルやコストのムダを未然に防ぐことができるのではないでしょうか。
SaaS管理は「仕組み」で解決できます。
情シス部門だけでなく、全社を巻き込んだSaaS管理の最適化が求められます。
「見える化」と「ルール化」を徹底することで、DX時代の業務基盤を強化する第一歩を踏み出してください。