国内でDXが盛んに取り上げられるようになったのは経済産業省が「2025年の崖」を指摘した2018年頃からではないでしょうか。もちろんそれ以前からDXという考えはあり、一部の企業ではすでにDXに向けた取り組みもおこなわれていたのですが、今ほど認知は広がっていなかったように思います。
このDXの広がり。背景にはクラウド技術の急速な進歩による実用化やサービス普及があるといえるのではないでしょうか。
今回はそのクラウドとDXの切り離せない関係についてみていきましょう。
目次
クラウドサービスとは
総務省によれば、クラウドサービスは次のように定義されています。
クラウドサービスは、従来は利用者が手元のコンピュータで利用していたデータやソフトウェアを、ネットワーク経由で、サービスとして利用者に提供するものです。利用者側が最低限の環境(パーソナルコンピュータや携帯情報端末などのクライアント、その上で動くWebブラウザ、インターネット接続環境など)を用意することで、どの端末からでも、さまざまなサービスを利用することができます。
出典)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/security/basic/service/13.html
かつては自社で利用するITシステムの稼働を目的として、専用機器を各企業が「保有」し維持管理もしていました。それが現在では、クラウドサービスによってほぼ同じ機器環境がネットワーク経由で「利用」できるようになっています。
つまり私たちは今、保有から利用へのパラダイムシフトに立ち会っているわけです。
今や日本政府も2021年3月30日公開の「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」の中で「クラウド・バイ・デフォルト原則」を決定し、クラウドサービスの利用を第一候補として検討するとしています。
クラウド・バイ・デフォルト原則
政府情報システムは、クラウド・バイ・デフォルト原則、すなわち、クラウドサービスの利用を第一候補として、その検討を行うものとする。
出典)https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/cloud_policy_20210330.pdf
クラウドサービスの信用度
クラウド技術の急速な進歩による実用化やサービス普及がめざましい一方、サービスが乱立すると、信用できるクラウドサービスが見分けにくくなる恐れもあります。
クラウドサービスの提供事業者は一般に、自社のサービス提供機器の設置場所や設置状況といった情報を積極的に公開することはありません。利用者は評判や料金から見当をつけ、実際にトライアル利用などして、期待に沿うサービス内容かどうかを判断するしかありません。
もちろんすべてのクラウドサービス事業者は社運をかけて機器の安定運用や、セキュリティの確保、運用人員体制の強化など行っているのですが、それでもサービス提供品質には差が出てしまうのが世の常です。
では、クラウドサービス事業者はどのように選べばよいのでしょうか。
クラウドサービスの選びかた
みなさん、日本政府がクラウドサービスの認定制度を設けているのはご存知でしょうか?
「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度」(ISMAP)といいます。
ISMAPはあらかじめ設定された基準に沿うクラウドサービス事業者を日本政府が認定する制度です。日本政府のお墨付きですから安心感ありますね。このISMAP。2022年7月現在で計38社が登録されています。
ISMAPクラウドサービスリスト
https://www.ismap.go.jp/csm?id=cloud_service_list
リストに登録されている38社のサービスは政府調達の対象にもなりますので、信頼度の高い38社といえるでしょう。
それでも38社もあるので、その中からさらに自社に適したクラウドサービス事業者を選び出す必要があるのはこれまでと変わりありません。しかもこの38社のサービス提供形態や範囲は同じではないのです。
かつてのIT機器環境に代えて利用できるIaaS(Infrastructure as a Service)。IaaSに加えOS、データベース、ミドルウェアがサービスとして利用できるPaaS(Platform as a Service)。利用シーンに近いソフトウェアがサービスとして利用できるSaaS(Software as a Service)など。さまざまなサービス提供形態があり、希望する使い方に応じて選ぶ必要があります。
このIaaS、PaaS、SaaSについては下記のコラムでご紹介しています。
このように、たとえISMAPを参考にしても自社に適したクラウドサービス事業者の最終決定はできません。ですが、少なくともISMAPに登録されているクラウドサービス事業者であれば「どの事業者を選んでも安心」といえます。その先はさらに自社に合った条件で絞り込んで事業者を選ぶことになりますが、ISMAPを参考にすることで、信頼度が高い希望通りのクラウドサービス事業者により近づけることでしょう。
なお、当社が現実的なDX成功のために活用をおすすめしているサイボウズ社のクラウドサービスkintoneもISMAPに登録されています。(登録番号:C21-0016-2、クラウドサービスの名称:クラウドサービス運用基盤cybozu.com 並びにcybozu.com 上で提供するGaroon及びkintone)
クラウドサービスの特長
クラウドサービスは機器環境やサービスを保有するのではなく「利用する」サービスです。利用するのですから、事業者側と利用側との間に責任分界点が存在します。
つまり、どこまでがクラウドサービス事業者側の責任で、どこからが利用者側の責任かを明確にする線が決められているということです。
多くの場合、クラウドサービス提供に用いる機器や、その設置環境に近い部分はクラウドサービス事業者側の責任範囲になります。また、それらに関わる基本的なネットワークやセキュリティの管理もクラウドサービス事業者側の責任範囲となることが多いです。
一方、クラウドサービス事業者の責任範囲を除く部分は利用者側が責任を持ちます。
利用者側からみると、かつて自社で専用機器を保有し、その機器の設置場所を確保し、機器稼働のための電源、空調、ネットワーク、セキュリティなどを維持管理していた部分が、そっくりそのままクラウドサービス事業者によって管理(マネージ)される。つまり、クラウドサービス事業者がその部分を肩代わりするような形になります。
クラウドは「マネージドサービス」(サービス提供の基本的な部分がクラウドサービス事業者に管理されるサービス)と言われるのはこのためです。
これだけでも利用者側にとっては相当な負担軽減になります。
またサービス提供に関わる費用面においても、自社向けに専用機器を保有維持してサービス提供するよりも、クラウドサービス事業者によって大規模かつ複数企業向けにサービス提供する方が、いわゆるスケールメリットが出るのでコストが下がります。
クラウドサービス事業者は大規模なサービス提供基盤を武器に、コストを極限まで下げ、大規模なコンピューティング資源を活用して次々と新たなサービスを生み出しています。しかもそのスピードは日を追うごとに増しています。
DXとクラウドの関係
ここまで見てきたように、クラウドの浸透により、かつてのIT利用の常識は大きく変わりました。より迅速に、より高性能に、より高い信頼性を安いコストで利用できるようになりました。
DXはIT技術の活用そのものを示すのではなく、IT技術の活用により事業競争力を強化するために変革を実現することです。
そこには各社毎の事情状況や市場環境があり、正解は1つではありません。
DXを目指す企業は、さまざまな角度から繰り返し変革に挑戦し、目指す成功の姿に向けて、PDCAやアジャイルをはじめとする改善プロセスを高速で回す必要があります。
かつての自社保有IT環境では、機器選定や調達、機器設定などに時間を要したため、求められるスピードで改善を繰り返すことができませんでした。また、改善の都度、多額のコストが必要となり、事業強化の大きな足かせとなっていました。
そのうえ、自社のIT環境を見直しているうちに市場や競合はどんどん先に行ってしまい、焦りのあまり大規模かつ単一のIT投資に賭ける選択をしてしまい、事業競争力強化のつもりが、IT投資の負担増や従業員の疲弊によって逆に競争力を失うような事態に陥ることもありました。
しかしながら現在では、クラウドサービスを利用することでこれらの負担は大幅に減り、DXの本質である、自社のあるべき姿への追求や、事業競争力強化に注力できるようになりました。
このように、クラウド技術の急速な進歩による実用化やサービス普及はDXに大きな推進力をもたらしているといえます。今後ますますDXとクラウドの切り離せない関係は深まり、DXに成功する企業も増え続けることでしょう。