国内でもDXの必要性が注目されるようになってきましたが、DX白書などによれば、まだまだ米国と比べるとDXへの取り組みに遅れが見られるようです。中でもDX推進を担う人材が不足していることが取り組みへの遅れにつながっている可能性も指摘されています。
ではDX推進を担う人材にはどのようなスキルが必要なのでしょうか?
今回はDXに必要なスキルについてみていきましょう。
目次
DXに必要なスキルの種類
これまで別コラムでも触れてきましたが、DX推進の手法や、DXが実現された姿に正解はありません。企業や組織によってその姿はさまざまです。
そのためDXに必要なスキルにも、そのスキルが無ければDXを推進してはならないというスキルは存在しません。
ではどのような視点で必要なスキルを身に付けるべきでしょうか?また、どのような視点からスキルを持つ人材を見極めるべきでしょうか?
本コラムでは次の2つに分類してみていきたいと思います。
1. 定量的で明文化しやすいスキル
2. 定性的で明文化しにくいスキル
上記1は例えば資格など、第三者からの評価によって一定のレベルに達していることを証明できるスキルや、資格とは言わないまでもテストをすればスキルレベルを点数として計測できるものを示します。
上記2は広くそれ以外のコミュニケーション力や人間力などとよばれる計測しにくいスキルを示します。
では早速、これらを順にみていきましょう。
定量的で明文化しやすいスキル
これは先ほど「第三者からの評価によって一定のレベルに達していることを証明できるスキルや、資格とは言わないまでもテストをすれば実力を点数として計測できるスキル」と表現したスキルです。
このスキルには以下のようにものが挙げられるでしょう。
● ITスキル
● 会計スキル(PL)
● 業務スキル
● ビジネス理解
● 経営理解
この他にもたくさんのスキルが該当すると思いますが、大まかに分類するとこのように分類できるでしょう。
ITスキル
独立行政法人 情報処理推進機構(以下、IPA)が運営する国家試験である情報処理技術者試験のほか、各製品ベンダーが運営するベンダー資格と呼ばれる資格などが該当します。
詳しくは別コラムでも解説していますが、例えばIPAが運営する情報処理技術者試験には13の試験区分があり、自社のビジネスや目指すべきDXの姿によって必要とされる試験区分も異なります。
ベンダー資格も同様で、自社のDX推進上、役に立つまたは必要な資格であれば有効ですが、関連性の低い資格はあまり有効に作用しない可能性もあります。
会計スキル
この領域での資格としては公認会計士などが挙がりますが、ほかにも簿記などの資格も活用できる場合が多いでしょう。
DX推進は何らかの「プロジェクト」として位置づけられることが多いと思います。
プロジェクトですので、プロジェクト収支の管理が必要とされることも多いでしょう。
また、そもそもDXの大きな目標の1つは自社の事業競争力強化ですので、その進捗を効果測定する上でも会計スキルは有効かもしれません。
対象とするDXが会計業務向けではない場合、簿記会計よりも管理会計のスキルの方が必要になる場合も多いので、自社のDXが求めるスキルの方向性はよく確認しましょう。
業務スキル
これはDXの対象となる業務そのものに関するスキルです。
資格やテストでは計測しにくい業務もあるでしょう。しかしながら、多くの業種業態では公的資格や民間資格が存在し、また自社内の資格制度や認定制度によってスキルレベルが判断されていることも多いでしょう。
当社ではDXを現場主導で推進することをおすすめしています。
スモールスタートで、確実に、効果を確かめながら現場の成功体験を積み重ね、DXのファン(支援者や賛同者)を増やしながら、徐々にタテヨコのステークホルダー(利害関係者)を巻き込んで変革の範囲を広げ、最終的に自社のDX実現を目指す進め方です。
現場主導のDXを進める場合、最も課題の多い、いわゆるボトルネックになっている業務から改善を始めることをおすすめしています。
この時、業務スキルが不足していると、課題の有無やボトルネックの特定、改善後の姿のイメージができず、現場主導のDX推進が立ち行かなくなってしまう可能性もあります。
ビジネス理解
業務スキルが十分あっても、特定業務のことだけしか目に入らなければDXという壮大な目標の実現は難しくなるかもしれません。
目前の業務課題に加え、その課題が部門や全社のビジネスに与える影響まで正しく理解し把握できていなければDXは業務改善レベルに留まってしまいます。
自らの担当業務だけでなく、自部門の業務、取引先との関係など、より広い視野で自社ビジネス全体を仕組みからとらえ、全体の中でボトルネックになっている業務の位置づけや、その影響を判断するスキルが必要といえるでしょう。
イメージとしては衛星写真提供サービスなどでよく目にする、地球の全球画像から拡大していき、最終的には目標とする構造物の形まで詳細に映し出すのに似ているかもしれません。
経営理解
DXはデジタル技術を用いて改革を目指すものです。
その目的には事業競争力の強化や、新たなビジネスの創出といったビジネス変革に加え、ときには企業文化の変革まで含まれます。
そのとき、自社が持つ課題を見極め、どの方向に向かい、最終的に何を目指すべきかを設定・定義する必要があります。
こうしたことを行うには、経営理解、つまり経営的な視点が欠かせないのではないでしょうか。
経営者自らがDXプロジェクトの先頭に立って推進する場合を除き、任命された担当者がDXプロジェクトを推進することになるでしょう。
このときDX推進担当者は経営者の考えを理解し、DX実現の姿をイメージし、目的を共有する必要があります。
もし、経営の考えを理解し、変革の姿をイメージするスキルがDX推進担当者に不足していると、経営者との目的共有ができず、DXプロジェクトは目指す方向とは異なる姿に終わってしまうかもしれません。
定性的で明文化しにくいスキル
これは先ほど「広くそれ以外のコミュニケーション力や人間力などとよばれる計測しにくいスキル」と表現したスキルです。
資格やテストといった、評価や点数で定量的にあらわせるスキルとは異なり、非常に感覚的かつ主観的な評価がともなうスキルといえるでしょう。
ですが、DXの成否を握るのはむしろこちらのスキルかもしれません。
DX推進には、進め方にもよりますが、たくさんの利害関係者(ステークホルダー)が関わります。
DXは変革を伴いますので、多少なりとも既存の業務内容や組織編成に影響を及ぼすことが想定されるでしょう。
すると、変化を嫌いネガティブキャンペーンを張る抵抗勢力が出てきたり、逆に急速な変化を求める勢力が出てきたりする可能性もあります。
中でも一番難しいのがモノを言わぬ抵抗勢力です。
DXプロジェクト推進中は反対意見も出ないので、DX推進担当者としてはプロジェクトは上手くいっていると勘違いしてしまいます。
ところがDXプロジェクトが完了した後、こうした勢力は新たなITシステムや業務プロセスを無視して従来通りのやり方で業務を継続し、DXが有名無実化してしまう可能性があります。
そうならないためにも必要なスキルとして、次のようなスキルを挙げます。
● コミュニケーションスキル
● 信頼関係構築スキル
● プレゼンテーションスキル (説明能力)
● リーダーシップ (方針を示し関係者を率いる)
● マネジメントスキル (予算、スケジュール、リスク、体制、品質、ステークホルダ調整、人員調達)
● あいまいさへの対応スキル (目的の具体化能力)
● 変化への対応スキル (スピード、切替え能力)
● 他人への敬意、利他思考
● 健康・体力
このほかにも必要なスキルはあるでしょう。
ただしDX推進担当者を任命する前に確認すべき最低限の観点としては、これらが代表的といえるのではないでしょうか。
分かりにくい項目もあると思いますので、抜粋して補足説明しましょう。
プレゼンテーションスキル(説明能力)
これは「しゃべりが上手い」「資料作りが上手い」だけでなく、場面や相手に合わせて必要な情報を端的に分かりやすく説明し、理解させることができるスキルを示します。
よくある風景として、プレゼンターは自らの説明に満足している一方、聞き手には内容が十分に伝わっていないことがあります。
そうならないためには、本来の意味での高いプレゼンテーションスキルが求められます。
あいまいさへの対応スキル
そもそもDXプロジェクトのスタート時点ではその目標もあいまいで、何を目指せばよいか、誰と会話すればよいか、どう進めたらよいかなどまったく決まっていません。
そうしたゼロベースの状況でも、DX推進担当者は自ら課題や目的を設定し、今日明日からの具体的な行動を見出していく必要があります。
曖昧模糊とした状況や、混沌とした状況の中にあっても、自らのミッションを明確に理解し、広い視野、高い視点から現状を見据え、具体的な行動に落とし込むスキル、つまり「あいまいさへの対応スキル」が必要になります。
他人への敬意、利他思考
DXは変革です。変革には何かしらの痛みがともないます。
それは慣れ親しんだ作業や業務を離れて別の何かを身に付けることから始まり、組織体制、人間関係に至るまで、好ましい変化だけでなく、対象となる社員にとってはときに痛みをともなう変化になることもあるでしょう。
痛みをともなう変化を進めるとき、その内容はDX推進担当者から伝えられます。説得が必要になる場合もあるかもしれません。
その際、事務的に対応するのではなく、利他の心をもち、相手に敬意を払って対応できるスキルが大切ではないでしょうか。そうしたスキルを備えたDX推進担当者が心から発する言葉はきっと相手にも伝わることでしょう。
DXとは変革ばかりを優先してその他を排除するような活動ではありません。
会社はもちろん、関係する社員が最終的に幸せになることを目指す活動ともいえるでしょう。
そのDXを先頭に立って推進する担当者は誰よりもその心を忘れず、周囲の協力や助けがあってこそDXが実現できることを肝に銘じる必要があるのではないでしょうか。
DXに必要なスキルの身に付けかた
定量的で明文化しやすいスキルのうち、ITスキルや会計スキルは資格取得に向けた学習や、書籍・セミナーからの情報などによってある程度は身に付けることができるでしょう。
ただし、士業などの資格取得を条件とする業務を除き、とくにIT系の資格はあくまで学習成果の証に過ぎません。
登山で山頂に旗を立てたり、石を積み上げるのと同じで、その分野についてのスキルが一定水準を超えていることを客観的に証明するのが資格といえるでしょう。
実務経験をおろそかにして資格勉強だけで「頭でっかち」になってもDXは上手く進められません。バランスが大切といえるでしょう。
業務スキル、ビジネス理解、経営理解は、DXを目指す企業や組織に一定期間以上在籍し、理解を深めることで習得されるスキルで、どうしても習得までに時間がかかるスキルといえるでしょう。
一方、習得が難しいのが定性的で明文化しにくいスキルです。
このスキルを身に付ける上での根本的な部分は、その人物がもつ人間性のようなものといえるでしょう。これは人間力などと言われるものに近いかもしれません。
手本となる上司や先輩のそばで経験を積むことでこうしたスキルを習得していくケースもありますが、この場合も本人の素養があるからこそ身に付くのであって、万人が同じ時間と経験を積めば身に付くというものではありません。
今では多くの企業が採用時に適性検査などを行っています。
かつての適性検査は候補者をスクリーニングする目的で行われることもありましたが、今では候補者の入社後の業務適性を積極的に判断するために活用されていることの方が多いのではないでしょうか。
もちろん、ベテラン社員や経営層の長年の経験と勘による見立てでDX推進に適した担当者を任命するのも良いでしょう。
意外と人の勘というのは本質を言い当てられるものです。
さいごに
今回はDXに必要なスキルとして、定量的で明文化しやすいスキルと、定性的で明文化しにくいスキルについてみてきました。
たくさんのスキルを挙げましたが、これらのスキルをすべて身に付けている「スーパー人材」はほぼ存在しないと考えた方がよいでしょう。
決して採用市場からこのようなスーパー人材をピンポイントで探そうなどとはされないことをおすすめします。
そうではなく、こうしたスキルを1つでも2つでも持つ人材を集め、または可能性のある人材をリスキリングし、分担・分業して対応することをおすすめします。
そしてどうしても必要だが満たせないスキルがある場合には、社内に留まらず、社外のベンダーなども上手く活用することをおすすめします。
スキル習得の目的はDXをスムーズに推進し、実現することです。
決してスキルを身に付けることが目的ではありません。
本質を見誤ることなくすすめることができれば、みなさんのDXはきっと成功することでしょう。